個人事業から法人成りした後、個人事業のときから引き続き勤務していた従業員に退職金を支払うことがあります。この際、個人事業のときの勤務期間分も含めて退職金を支払っても税務上の問題はないのでしょうか?税理士がポイントを解説します。
個人事業のときの勤務期間も含めて退職金を支払うことは可能
法人成りした後に退職した従業員等に対して、個人事業のときの勤務期間も含めて退職金を支払うことができます。ただし、退職金規程等で、退職金の支払額の計算期間に「個人事業のときの勤務期間も含める」ということが定められていなければなりません。
ただし、個人事業のときに青色事業専従者であった人は、個人事業のときの勤務期間も含めて退職金を支払うことはできません。また、個人事業主自身も当然、個人事業のときの退職金を支払うことはできません。
支払った退職金は法人の経費、それとも個人の経費?
では、支払った退職金は、個人事業のときの勤務期間に相当する分も含めてすべて法人の経費となるのでしょうか?
これについては、原則として、個人事業のときの分と法人成り後の分を区分して考えなければなりません。
支給された退職金には個人事業のときと法人成りした後の両方の勤務期間に対応する分が含まれていると考えられます。このため、原則として個人事業のときの勤務に対応する部分の金額は法人の必要経費とはならず、個人所得税の最終年分の必要経費になります。
既に個人所得税の最終年分の申告が終わっているときは、必要経費が増えることになるので、更正の請求の手続き(払いすぎた税金を還付してもらう手続き)をすることにより、所得税の還付を受けることができます。なお、更正の請求には期限がありますので注意してください。
しかし、法人成りした後に長期間勤務してから退職することも考えられますよね。そのような場合に、過去を随分遡って、個人所得税の最終年分の申告を修正することはできません。
そのため、例外として、法人設立後相当の期間が経過した後に退職したときは、個人事業の勤務期間の分も含めて支給した退職金の金額が法人の必要経費とすることができます。
このときの「相当の期間」については明文規定されていません。実務的には減額更正との関連から5年という見解や、概ね3年という見解もあります。退職金規程の運用状況などをもとに個別的に判断することとなります。
まとめ
個人事業主が法人成りした後、個人事業のときから勤務していた従業員に対して退職金を支払ったときの取扱いについて解説しました。退職金規程等で退職金の計算期間を明確にしていなければならないので、その点には注意しましょう。