法定実効税率とは?その計算方法は?

税効果会計の適用や事業計画書の作成など将来負担すべき法人税等の金額を計算する際には法定実効税率を用います。今回は法定実効税率の概要や計算式、具体的な計算例などについて解説します。   法定実効税率とは? 法定実 … 続きを読む 法定実効税率とは?その計算方法は?

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税効果会計の適用や事業計画書の作成など将来負担すべき法人税等の金額を計算する際には法定実効税率を用います。今回は法定実効税率の概要や計算式、具体的な計算例などについて解説します。

 

法定実効税率とは?

法定実効税率とは、所得に対して負担することになる法人税等の割合のことをいいます。

 

法人税等には次の税金が含まれます。

・法人税
・地方法人税
・法人住民税(法人税割)
・事業税(所得割)
・特別法人事業税

なお、外形標準課税(事業税の付加価値割、資本割)は、所得に対して課税される税金ではないため、法定実効税率には含まれません。

 

法定実効税率の計算式

法定実効税率の計算式は、企業会計基準適用指針第 28 号『税効果会計に係る会計基準の適用指針』の中で次のように定められています。

 

法定実効税率 =(法人税率×(1+地方法人税率+住民税率)+事業税率※)÷(1+事業税率※)

※事業税率には外形標準課税を含みません。
また、事業税が課税標準となる特別法人事業税を含み、次のように計算します。

事業税率=事業税率+事業税率(標準税率)×特別法人事業税率

 

事業税は損金の額に算入することができ、法人税を減らす効果があります。そのため、単純に税率を足すのではなく、上記のような事業税の損金算入効果を考慮した計算式とする必要があります。

 

法定実効税率と表面税率の違い

法定実効税率とよく似た言葉に「表面税率」というものがあります。

 

この表面税率の計算式は次のとおりです。

表面税率 = 法人税率×(1+地方税率+住民税率)+事業税率

表面税率は事業税の損金算入効果を考慮しない単純な税率の合算ということになります。

 

 

法定実効税率が利用される場面

法定実効税率は次のような場面で利用されます。

 

税効果会計の適用

税効果会計の適用にあたって、繰延税金資産や繰延税金負債の計上額を計算する際に、法定実効税率を用いることとなります。

事業計画書を策定する場面

将来の事業計画書の中には、将来の利益やそれに対する法人税等も織り込む必要があります。その際の法人税等を計算する際に法定実効税率を用いることができます。

 

法定実効税率の限界

法定実効税率には次のような限界があります。

 

法人税や事業税の軽減税率は考慮しない。

中小法人の場合、法人税率の軽減措置が設けられており、所得のうち年800万以下の部分については軽減税率が適用されます。事業税率も、軽減税率適用法人については、課税標準の金額によって段階的に軽減税率が設定されています。これらの軽減税率を考慮すると、法定実効税率の計算式が複雑になるため、考慮しません。

主たる事業所が所在する住民税率や事業税率を用いる。

住民税率や事業税率は地方自治体が条例で定めるため、地方自治体によって少し異なります。複数の地方自治体に事業所がある場合、事業所毎に法定実効税率を計算するとあまりにも複雑になります。そのため、主たる事業所が所在する地方自治体の住民税率や事業税率を用いて法定実効税率を計算することとなります。

事業税の損金算入効果が生じる時期を考慮しない。

事業税は支払った時期に損金算入が可能となるため、通常は所得が生じた期と損金算入されるタイミングにズレが生じます。しかし、法定実効税率の計算にあたってはそのようなタイミングのズレは考慮されていません。

住民税の均等割額は考慮しない。

住民税の均等割も所得に応じて課税されるものではないため、法定実効税率の計算式では考慮されていません。

 

このように法定実効税率は計算上の便宜を図った上で計算されるものであるため、実際に計算された法人税等の金額と、法定実効税率を用いて計算した金額が一致することはほとんどありません。

 

2023年3月期の法定実効税率のパターン

2023年3月期に適用される法定実効税率をいくつかのパターンで計算すると次のようになります。

 

(1)東京都(特別区内)、外形標準課税適用法人住民税・事業税は超過税率適用

法人税:23.2%
地方法人税:10.3%
法人都民税法人税割:10.4%(超過税率)
事業税(所得割):1.18%(超過税率)
特別法人事業税:事業税(標準税率)1.0%×260%

(23.2%×(1+10.3%+10.4%)+1.18%+1.0%×260%)÷(1+1.18%+1.0%×260%)=30.62%

 

(2)東京都(特別区内)、外形標準課税非適用、法人都民税・事業税は超過税率適用

法人税:23.2%
地方法人税:10.3%
法人都民税法人税割:10.4%(超過税率)
事業税(所得割):7.48%(超過税率)
特別法人事業税:事業税(標準税率)7.0%×37%

(23.2%×(1+10.3%+10.4%)+7.48%+7.0%×37%)÷(1+7.48%+7.0%×37%)=34.59%

 

(3)大阪府大阪市、外形標準課税適用法人住民税・事業税は超過税率適用

法人税:23.2%
地方法人税:10.3%
法人住民税法人税割(超過税率):大阪府2.0%+大阪市8.2%=10.2%
事業税(所得割):1.18%(超過税率)、
特別法人事業税:事業税(標準税率)1.0%×260%

(23.2%×(1+10.3%+10.2%)+1.18%+1.0%×260%)÷(1+1.18%+1.0%×260%)=30.58%

 

(4)大阪府大阪市、外形標準課税適用なし、法人住民税・事業税は超過税率適用

法人税:23.2%
地方法人税:10.3%
法人住民税法人税割(超過税率):大阪府2.0%+大阪市8.2%=10.2%
事業税(所得割):7.48%(超過税率)
特別法人事業税:事業税(標準税率)7.0%×37%

(23.2%×(1+10.3%+10.2%)+7.48%+7.0%×37%)÷(1+7.48%+7.0%×37%)=34.55%

 

このように法定実効税率は事業所の所在地、外形標準課税適用法人かどうか、超過税率が適用される法人かどうかなどによって様々なパターンがあります。自社の状況を正しく判断して法定実効税率を計算する必要があります。また、最新の税率を確認するようにしましょう。

 

まとめ

法定実効税率について解説しました。法定実効税率の計算にあたっては間違いやすいポイントがたくさんありますので、一つ一つ理解し、自社の適用される税率を確認しながら、丁寧に計算する必要があるでしょう。

なお、本投稿は、投稿日時点で最新の情報に基づいて作成していますが、記載内容に誤りがあったとしても責任は負いかねますので、ご了承ください。