2023年(令和5年)度税制改正で、電子帳簿保存制度関係では、優良な電子帳簿の対象帳簿の範囲の合理化・明確化、スキャナ保存制度の要件の緩和、電子取引データの保存制度の猶予措置の創設の3つの改正が行われています。今回は、電子帳簿保存制度関係の改正について解説します。
優良な電子帳簿の対象帳簿の範囲の合理化・明確化
会計ソフトを使うなどして自身で最初から一貫してパソコンで作成している帳簿や書類で、モニターや説明書等を備え付けるなどの要件を満たしているときは、印刷せずに電子データのまま保存することができます(電子帳簿保存)。
さらに、その帳簿が「優良な電子帳簿」の要件を満たしている場合で、事前に税務署への届出をしているときは、税務調査等で、その電子帳簿に関連する過少申告が判明した場合の過少申告加算税が5%軽減されるという特典が設けられています。
「優良な電子帳簿」は、「モニター・説明書等を備え付ける」などの電子帳簿として保存するための要件に加えて、① 訂正削除履歴の保存、 ② 帳簿間の相互関連性 ③ 日付・金額・相手方による検索機能、という3つの要件を満たしている必要があります。
この優良な電子帳簿の対象帳簿の範囲の合理化・明確化が行われ、次のようになります。
改正前 |
改正後 |
・仕訳帳 |
・仕訳帳 |
<対象となる帳簿の具体例>
・売上帳、仕入帳、経費帳(賃金台帳を除く。)、売掛帳、買掛帳
(注)所得税の場合は、賃金台帳も対象
・受取手形記入帳、支払手形記入帳、貸付帳、借入帳、有価証券受払い簿
・固定資産台帳、繰延資産台帳 等
この改正は2024年(令和6年)1月1日以後に法定申告期限等が到来する国税について適用されます。
スキャナ保存制度の要件の緩和
スキャナ保存制度とは、紙で受領した書類や作成した帳簿をスキャンして、スキャンしたデータを保存する方法のことをいいます。この場合も要件が定められていますが、改正により次のような要件の緩和が行われます。
<改正の内容>
①記録事項の入力者等の情報を確認できるようにしておくことの要件が不要となります。
②スキャナの読み取り情報(解像度・階調・大きさ)の保存の要件が不要となります。
③帳簿との相互関連性を求める書類が重要書類(資金や物の移動に直結・連動する書類(契約書、領収書、請求書等))に限定されます。
改正前後のスキャナ保存制度の要件は次のようになります。
改正前 |
改正後 |
|
解像度・カラー・階調情報・大きさ情報の要件 |
○ |
- |
タイプスタンプの付与 |
○ |
○ |
入力期間の制限 |
○ |
○ |
入力者等情報の確認 |
○ |
- |
バージョン管理 |
○ |
○ |
帳簿との相互関連性の保持 |
○ |
△ |
見読可能装置・システム関係書類等の備付け/整然・明瞭出力 |
○ |
○ |
検索機能の確保 |
○ |
○ |
この改正は2024年(令和6年)1月1日以後に保存される国税関係書類から適用されます。
電子取引データの保存制度の猶予措置の創設
見積書、契約書、請求書などの書類をメールなどで電子データで受け取った場合には、電子取引データの保存の要件を満たした上で、保存しておくことが必要です(電子取引データ保存)。
電子取引データ保存の原則的なルール
電子取引データは、原則として、次の4つの要件を満たした上で保存する必要があります。
<電子取引データ保存の要件(原則)>
①タイムスタンプ付与、履歴が残るシステムでの授受・保存、改ざん防⽌のための事務処理規程を定めて守るなどの方法でデータ改ざん防止のための措置をとる。 |
ただし、準備が間に合わない会社も多かったため、2022年(令和4年)税制改正で次のような宥恕措置(経過措置)が設けられました。
<2023年(令和5年)12月31日までの宥恕措置(経過措置)>
2023年(令和5)年 12 月 31 日までに⾏う、電子取引については、保存すべき電子データをプリントアウトして保存し、税務調査等の際に提示・提出できるようにしておくことが認められる。 |
この宥恕措置により、2023年(令和5)年 12 月 31 日までは、事実上、データをプリントアウトして保存しておけば、特に問題ありませんでした。この宥恕措置は期限をもって廃止されますが、その代わりに次のような期間制限のない猶予措置が設けられることとなりました。
<2023年(令和5年度)税制改正で新設された猶予措置~2024年(令和6年)1月1日以後適用~>
次の3つの猶予措置の要件を満たす場合には、原則的な保存方法によらず、電子取引データの保存することが認められます。
①電子取引データ保存の要件(原則)で保存できないことについて相当の理由がある(事前手続は不要) |
さらに検索機能確保の要件を不要とする措置について次の改正が行われています。
従来から小規模事業者については電子取引データ保存の4つの要件のうち、税務調査等の際に電子取引データの「ダウンロードの求め」に応じることができる場合には、検索機能確保の要件は不要とされています。
この対象となる検索機能確保の要件を不要とする措置の対象者が拡大されました。
改正前 |
基準期間(2課税年度前)の売上高が1,000 万円以下の事業者 |
改正後 |
次のいずれかの要件を満たす事業者 ・基準期間(2課税年度前)の売上高が5,000 万円以下の事業者 ・電子取引データをプリントアウトした書面を、取引年月日、取引先ごとに整理された状態で提示・提出することができるようにしている事業者 |
プリントアウトして、取引年月日、取引先ごとに整理している場合は、規模にかかわらず、検索要件確保の要件は不要となります。
まとめ
2023年(令和5年)度税制改正による電子帳簿保存制度関係の改正について解説しました。時に電子取引データ保存の経過措置の適用期限到来後はどうなるか気にされている方も多かったのではないでしょうか。猶予措置の創設によりプリントアウト+データの保存で対応することができるようになりました。これ措置を使えば対応しやすいのではないでしょうか。今後も電子帳簿保存制度については見直しが行われていくと思われますので、引き続き確認していく必要があるでしょう。
2023年(令和5年)度税制改正の全体像を知りたい方はこちらの記事も参考にしてください。
(関連記事)2023年(令和5年)度税制改正のポイント