2023年3月28日、2023年(令和5年)度税制改正法案が成立しました。
今回は2023年(令和5年度)税制改正のポイントを解説します。
個人に関する税金
個人に関する税金は主に次のような改正が行われます。
少額投資非課税制度(NISA)の拡充・恒久化
・少額投資非課税制度(NISA)の非課税保有期間が無期限化され、口座開設可能期間の期限も撤廃され、NISA制度は恒久的な措置となります。
・「つみたて投資枠」は現行のつみたてNISAの年40万円から年120万円に拡充されます。
・現行の一般NISAに代えて「成長投資枠」が設けられ、「つみたて投資枠」との併用が可能となります。「成長投資枠」の年間投資上限額は、現行の一般NISAの年120万円から年240万円まで拡充されます。
・年間投資額とは別に、総額1,800万円(内、成長投資枠 1,200万円)の一生涯における非課税限度額が設けられます。
資産に関する税金
資産に関する税金は主に次のような改正が行われます。
相続時精算課税制度の改正
相続時精算課税制度の特別控除額2,500万円に、年110万円の基礎控除額が設けられることとなりました。これにより、相続時精算課税制度選択後も、年110万円まで課税されずに贈与を行うことが可能となります。2024年(令和6年)1月1日以後の贈与について適用されます。
相続開始前贈与の加算期間の改正
相続開始前贈与の加算期間が現行の3年間から7年間に延長されます。なお、延長された4年間に受けた贈与のうち総額100万円までは相続財産から控除する措置が講じられます。
この改正は2024年(令和6年)1月1日以後の贈与により取得する財産に係る相続税について適用されます。
教育資金の一括贈与、結婚・子育て資金の一括贈与 3年延長
教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置について、節税的な利用が行われないように一定の見直しが行われた上で、適用期限が2026年(令和8年)3月31日まで3年間延長されます。
結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置について、節税的な利用が行われないように一定の見直しが行われた上で、適用期限が2025年(令和7年)3月31日まで2年間延長されます。
法人に関する税金
法人に関する税金は主に次のような改正が行われます。
研究開発税制の改正
一般試験研究費の額に係る税額控除制度について、税額控除率や控除税額の上限について見直しが行われた上で、適用期限が2026年(令和8年)3月31日までに開始する事業年度mで3年延長されます。
また、特別試験研究費の対象となる試験研究費の額や試験研究費の範囲についての見直しが行われます。
この改正は2023年(令和5年)4月1日以後に開始する事業年度から適用となります。
中小法人に対する法人税の軽減税率の特例の期限延長
中小法人に対する法人税の軽減税率の特例(所得金額年800万円まで15%)の適用期限が2025年(令和7年)3月31日までに開始する事業年度まで2年間延長されます。
中小企業投資促進税制の期限延長
中小企業投資促進税制について、対象資産から、コインランドリー業(主要な事業であるものを除く。)の用に供する機械装置でその管理のおおむね全部を他の者に委託するものを除外するなど一定の見直しが行われた上で、適用期限が2025年(令和7年)3月31日まで2年間延長されます。
暗号資産の評価方法等の改正
暗号資産の評価方法等について次の見直しが行われます。
①暗号資産の時価評価の対象から、自己が発行した暗号資産で発行の時から継続して保有しているものであること等一定の要件に該当する暗号資産が除外されます。
②自己が発行した暗号資産の取得価額は、発行に要した費用の額となります。
③法人が暗号資産交換業者以外の者から借り入れた暗号資産を譲渡した場合で、譲渡した日の属する事業年度終了の時までにその暗号資産と同じ種類の暗号資産の買戻しをしていないときは、買戻しをしたものとみなして譲渡損益を計算します。
これらの改正は2023年(令和5年)4月1日以後に開始する事業年度から適用となります。
インボイス制度に関する改正
インボイス制度に関しては、主に次のような見直しが行われています。
小規模事業者に係る納税額の負担軽減措置(2割特例)の創設
免税事業者がインボイス制度対応のためにインボイス発行事業者を選択した場合の負担軽減を図るため、3年間、負担軽減措置が設けられます。
一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置(少額特例)
基準期間の課税売上高が1億円以下の事業者は、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間、税込価額が1万円未満の課税仕入れの場合は、一定事項を帳簿に記載することで仕入税額控除が認められることとなります。
インボイス制度の登録手続きの見直し
インボイス制度の登録手続きに関する期限、登録日について次のように改正が行われます。
改正前 |
改正後 |
|
免税事業者が課税期間の初日から登録を受けようとする場合の申請期限 |
当該課税期間の初日の前日から起算して1月前の日 |
当該課税期間の初日から起算して15日前の日 |
適格請求書発行事業者が翌課税期間の初日から登録を取り消そうとする場合の申請期限 |
その提出があった課税期間の末日から起算して30日前の日の前日 |
当該翌課税期間の初日から起算して15 日前の日 |
登録に関する経過措置期間*中の登録日 |
登録完了日 |
提出する日から 15 日を経過する日以後の日で登録を希望した日 |
*2023年(令和5年)10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間
なお、これらの改正の趣旨等を踏まえて、2023年(令和5)年 10 月1日から適格請求書発行事業者の登録を受けようとする事業者が、その申請期限後に提出する登録申請書に記載する困難な事情については、運用上、記載がなくとも改めて求めないこととされます。
電子帳簿保存法制度の改正
電子帳簿保存制度に関しては、主に次のような見直しが行われています。
・電子取引データの保存制度に関して、現行の経過措置は2023年(令和5年)12月31日の適用期限をもって廃止された上で、2024年(令和6年)1月1日以降は、次の猶予措置が設けられます。
(猶予措置の内容)
相当の理由があると認める場合には、その電子取引データの出力書面の提示・提出の求め及びその電子取引データのダウンロードの求めに応じることができるようにしておけば、保存要件を不要として、電子取引データの保存が可能となります。
また、検索機能の確保の要件の緩和措置が設けられます。
・スキャナ保存制度について、入力者等の情報の確認要件、スキャナの読取情報(解像度・階調・大きさ)の保存要件は廃止されます。また、相互関連性の要件は重要書類に限定されます。
・優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置の対象帳簿の範囲の合理化・明確化が行われます。
現行 |
仕訳帳、総勘定元帳、その他必要な帳簿(全て) |
改正後 |
仕訳帳、総勘定元帳、次に記載する対象帳簿 <対象帳簿> |
電子帳簿保存制度関係の改正について詳しく知りたい方はこちらの記事を参考にしてください。
(関連記事)2023年(令和5年)度税制改正 電子帳簿保存制度関係の改正を解説
その他の改正
無申告加算税の加重措置の創設
追徴税額(増差税額)が300万円を超える場合の無申告加算税の割合が20%から30%に引き上げられます。
また、前年度及び前々年度に無申告加算税または重加算税(無申告)を課される者が、更なる無申告行為を行った場合、無申告加算税または重加算税が10%加重されます。
これらの改正は、2024年(令和6年)1月1日以後に申告期限が到来する国税について適用されます。
まとめ
2023年(令和5年)度税制改正について解説しました。インボイス制度や電子帳簿保存制度の改正は多くの会社に共通して影響があるため、理解しておきましょう。
なお、今回の改正はありませんが、防衛力の強化に係る財源を確保するため、今後、法人税、所得税、たばこ税等について増税される方針が示されています。今後の動向についても注意していく必要があります。