消費税の計算方法には、原則課税(本則課税)と簡易課税の2つの方法があることをご存じでしょうか?簡易課税とはどのような制度で、どのような場合に適用できるのでしょうか?税理士がわかりやすく解説します。
1.消費税の簡易課税とは?
消費税の計算方法には①原則課税(本則課税)と②簡易課税があります。
消費税は、原則として、課税売上げ等に係る消費税額から課税仕入れ等に係る消費税額を差し引いた金額を納税します(原則課税)。課税仕入れ等に係る消費税額(仕入控除税額)を差し引くことを仕入税額控除といいます。
これに対して、簡易課税では、次の金額が仕入控除税額となります。
仕入控除税額=課税売上げ等に係る消費税額×業種ごとに定められたみなし仕入れ率 |
つまり、簡易課税によれば、実際の課税仕入れ等に係る消費税額を集計することなく、課税売上高を基にして、簡易な計算方法で仕入控除税額を計算することができます。
原則課税を適用する場合は、一つ一つの取引について、消費税の課税取引・非課税取引・対象外取引と判別して、会計ソフトに入力していかなければ、実際の課税仕入れ等に係る消費税額を集計することができません。そのため、消費税に関する基礎的な知識が必要となりますし、入力の事務負担もかかってきます。小規模事業者の事務負担の軽減のために設けられているのが簡易課税制度です。
2.消費税の簡易課税制度の適用要件
消費税の簡易課税制度が適用できる小規模事業者は、次の事業者です。
「簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出済みで、基準期間の課税売上が5,000万円以下の事業者 |
基準期間とは、法人の場合は前々事業年度(2期前)のことをいいます。個人の場合は、2年前です。
例えば、3月決算の法人が2019年4月1日から2020年3月31日までの事業年度で簡易課税制度を適用するためには、次のようになります。
①2017年4月1日から2018年3月31日までの事業年度(基準期間)の課税売上が5,000万円以下であること ②2018年3月31日までに「簡易課税制度選択届出書」を提出していること |
なお、「簡易課税制度選択届出書」は一度提出をすれば、その後も有効です。
基準期間の課税売上が5,000万円超となる課税期間は自動的に原則課税となり、再び基準期間の課税売上が5,000万円以下となったときは自動的に簡易課税が適用されることとなります。
この簡易課税の適用を取りやめるためには、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出します。ただし、簡易課税を選択適用したりすると、原則として2年間は適用しなければならないという2年縛りがありますので注意しましょう。
3.簡易課税制度での消費税の計算方法
簡易課税制度での消費税の計算は次のように行います。
課税売上げに係る消費税額-(課税売上げに係る消費税額×みなし仕入率)=消費税額 |
この計算で使うみなし仕入率は業種ごとに次のように決められています。
簡易課税のみなし仕入率
第一種事業 | 卸売業 | 90% |
第二種事業 | 小売業 | 80% |
第三種事業 | 製造業等 | 70% |
第四種事業 | その他の事業 | 60% |
第五種事業 | サービス業等 | 50% |
第六種事業 | 不動産業 | 40% |
みなし仕入率が高いほど、仕入控除税額が多くなり、税務署に納める消費税額は少なくなります。
例えば、不動産業で、課税売上げが3,000万円、課税売上げに係る消費税額が240万円とした場合は次のようになります。
240万円-(240万円×40%)=144万円 |
このように簡易課税を適用すると、課税売上げに係る消費税額がわかれば、とても簡単に消費税額を計算することができます。
複数の事業を行っている場合は、原則として、事業区分ごとに計算します。ただし、1種類の課税売上高が全体の課税売上高の75%以上のときは、その1種類の事業のみなし仕入率を全体に用いることができるなどの特例が設けられています。
また、固定資産を売却したときは、「第四種事業」のみなし仕入率を使います。
4.原則課税と簡易課税、どちらが有利?
簡易課税は事務負担の軽減のために設けられている制度なのですが、原則課税と消費税額の計算方法がまったく違うため、簡易課税を適用するかどうかによって、消費税額が多くなったり、少なくなったりします。
当然、税務署に納める消費税額は少ないほうがよいでしょう。そのため、原則課税を適用した方が有利か、簡易課税を適用した方が有利かを検討しておきましょう。先ほど説明したように、簡易課税を適用するためには、課税期間の開始の日までに「簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があるので、検討はそれまでに行っておかなければなりません。
また、簡易課税を一度選択すると原則として2年間は変更できないという2年縛りがあることも忘れないようにしましょう。
原則課税と簡易課税のどちらが有利かは事前にしか検討できません。そのため、過去の実績や将来計画の売上・仕入・経費等に基づいてどちらが有利かを検討することとなります。今後、多額の固定資産の購入予定や売却予定があるときは、それらの購入計画も考慮しておかなければなりません。
まとめ
消費税の簡易課税制度について解説しました。簡易課税制度を適用すると経理事務は楽になりますし、消費税が少なくなることもあります。簡易課税制度をしっかりと理解し、原則課税とどちらが有利になるかについて必ず検討するようにしましょう。