電子帳簿保存法は2021年度税制改正により要件が大幅に緩和され、より使いやすいものとなりました。今回は、帳簿や書類を電子データで保存する「電子帳簿等保存」について税理士がわかりやすく解説します。
そもそも電子帳簿保存法とは?
「帳簿」(総勘定元帳、仕訳帳など)や「書類」(請求書、領収書など)といった国税関係書類は紙で保存することが原則とされていますが、一定の要件の下に電子データで保存することが認められています。この電子データで保存するときのルールを定めているのが電子帳簿保存法です。
保存の仕方には次の3つのパターンがあります。
・電子帳簿等保存
・スキャナ保存
・電子取引
今回、解説するのはこのうち「電子帳簿等保存」についてです。
(関連記事)電子帳簿保存法とは?概要やメリット・デメリットをわかりやすく解説(1)
電子帳簿等保存とは?電子帳簿等保存の対象は?
「電子帳簿等保存」とは、PC等で作成した帳簿や書類をそのまま電子データで保存する方法です。手書きで作成している場合などはこの電子帳簿等保存をすることはできません。
電子帳簿等保存が可能なものは次のとおりです。
帳簿 | 総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、売掛金元帳、買掛金元帳、固定資産台帳、売上帳、仕入帳などの帳簿 |
書類 | 棚卸表、貸借対照表、損益計算書などの書類 |
自身が作成した注文書、契約書、領収書などの書類 |
電子帳簿等保存の要件
電子帳簿等保存の要件は電子データで保存するものが「帳簿」なのか『書類」なのかによって異なります。
「帳簿」を電子データで保存するときの要件
パソコンを使用して一から作成する帳簿は、要件を満たした場合に、電子データで保存することが認められています。
2021年税制改正によって、電子帳簿は、『一般電子帳簿』と『優良な電子帳簿』に区分され、それぞれ異なる要件が設けられました。電子帳簿等保存をするだけであれば一般電子帳簿の要件を満たしていれば十分ですが、優良な電子帳簿の要件を満たすと優遇制度(インセンティブ)を受けることができます。
<一般電子帳簿>
一般電子帳簿に求められる要件は次のとおりです。
①システム概要書等の備付け
システム概要書、仕様書、説明書、事務処理マニュアル等のシステム関係書類を備え付けておく必要があります。オンラインマニュアルやオンラインヘルプ機能でも認められます。
②見読可能装置の備付け
パソコン、ディスプレイ、プリンタ等と操作マニュアルを備え置き、帳簿等が速やかに閲覧・出力できるようにしておく必要があります。なお、ディスプレイやプリンタ等の性能、設置台数は特に決められていません。
③ダウンロードの求めに応じること
税務調査が行われる際に、調査官からデータの閲覧またはダウンロードの要求があった場合は、これに応じることにできるようにしておかなければなりません。
一般電子帳簿による場合、税務署への事前承認申請は必要なくなりました。
<優良な電子帳簿>
優良な電子帳簿には、一般電子帳簿の要件に加えて、次の要件が求められます。
④訂正・削除の履歴の確保
訂正や削除を行った場合、システムでその事実及び内容が確認できるようにしておく必要があります。
⑤通常の業務処理期間経過後の入力の事実の確認
システムへの入力を通常の業務処理期間の経過後に行った場合には、システムでその事実が確認できるようにしておかなければなりません。
通常の業務処理期間というのは、各社の事務処理規程等に定められている業務サイクルとしての入力を行う日次、週次、月次といったの期間のことをいいます。なお、最長2か月までの業務サイクルであれば、通常の期間として取り扱うこととされています。
⑥相互関連性の要件
帳簿の記録事項と関連する他の帳簿との間に相互にその関連性が確認できることが必要です。
⑦検索の要件
次の3つの検索機能を備えておかなければなりません。なお、データのダウンロードに応じることができるようにしている場合には、イの要件のみで足ります。
イ 取引年月日、取引金額、取引先の記録項目で検索できること
ロ 日付または金額により、範囲を指定した検索ができること
ハ 2以上の任意の記録項目を組み合わせて検索できること
これらの要件を満たした上で、届出書を提出した場合に優良電子帳簿として取り扱われます。
この優良電子帳簿による場合は、次のような優遇措置が設けられています。
①個人事業者の場合、青色申告特別控除の金額が55万円から65万円に拡大されます。
②修正申告等があった場合の過少申告加算税が5%軽減されます。
「書類」を電子データで保存するときの要件
パソコンを使用して一から作成する書類は、要件を満たした場合に、電子データで保存することが認められています。
書類を電子データで保存する場合には、次のような要件を満たす必要があります。
①システム概要書等の備付け
システム概要書、仕様書、説明書、事務処理マニュアル等のシステム関係書類を備え付けておく必要があります。オンラインマニュアルやオンラインヘルプ機能でも認められます。
②見読可能装置の備付け
パソコン、ディスプレイ、プリンタ等と操作マニュアルを備え置き、帳簿等が速やかに閲覧・出力できるようにしておく必要があります。なお、ディスプレイやプリンタ等の性能、設置台数は特に決められていません。
③ダウンロードの求めに応じること
税務調査が行われる際に、調査官からデータの閲覧またはダウンロードの要求があった場合は、これに応じることにできるようにしておかなければなりません。なお、一定の検索機能を確保している場合は、データ提供に応じなくてもよいこととされています。
なお、書類を電子保存する場合、税務署への事前承認申請は必要なくなりました。
電子帳簿等保存のその他の注意点など
市販の会計ソフトを使っている場合
一般電子帳簿の要件を満たせば市販の会計ソフトを利用している場合でも電子データでの保存は可能です。2021年度税制改正で、一般電子帳簿の要件は大幅に緩和されましたから、多くの市販の会計ソフトでこの要件を満たすことになるでしょう。
また、優良な電子帳簿の要件を満たしているときは、税務署長への届出をすることにより、優遇措置を受けることができます。JIIMA(公益社団法人日本文書情報マネジメント協会の認証マークが印字されているものは、JIIMAより優良な電子帳簿の要件を満たすことの確認を受けています。
バックアップデータの保存は必要?
バックアップデータの保存は、電子帳簿等保存の要件とはされていません。しかし、データが損傷した場合は要件を満たさないこととなるため、バックアップデータは保存しておいた方がよいでしょう。
まとめ
今回は電子帳簿等保存について解説しました。2021年度税制改正で要件の緩和が行われ、大幅に使いやすいものになっています。用語がわかりにくいのですが、一つ一つ整理して、要件を確認した上で活用を検討してみてはどうでしょうか?